マンション住民の味方のはずの、設計コンサルが、むしろ工事業者の談合を主導していたとしたら? そんな裏切り行為を公正取引委員会が指摘・公表しました。
2026年9月28日、公正取引委員会は、関東のマンション大規模修繕工事をめぐる談合で、42社の独占禁止法違反を認定し、 このうち38社に排除措置命令(違反行為をやめさせ、再発を防ぐための行政処分)を出しています。
あわせて、施工会社37社に計16億3,788万円の課徴金納付命令も出しました。マンションの大規模修繕工事で、公取委が行政処分を出したのは今回が初めてです。
この事件でとくに非難されているのは、談合の中心に設計コンサルタントがいたという点です。設計コンサルは本来、工事に詳しくない住民(管理組合)の側に立ち、施工会社選びを手伝う専門家です。ところが処分を受けたリノシスコーポレーションと翔設計の2社は、工事ごとに受注する会社を決め、管理組合の予算情報をその会社に伝えていました。そして受注した会社から、契約価格の5%を目安とするお金を受け取っていたのです。
もう一つ、考えておきたいことがあります。これは本当に、この2社だけの問題だったのかどうか。
報道各社は、業界に以前から同じような慣行があったのではないか、という見方を伝えています。関東でマンションを所有しているなら、「自分のマンションの修繕はどうだったか」を一度確かめておく必要がありそうです。
この記事では、公取委が公表した命令書や資料をもとに、談合の仕組みと処分の中身、所有者が確かめておきたい点を整理します。
この記事は「東京マンション売却編集部」が作成し、以下の監修者が内容を確認しています。
立石秀彦
宅地建物取引士/JSHI公認ホームインスペクター アップライト合同会社 代表
雑誌編集者として実業之日本社に勤務後、沖縄で不動産会社(沖縄かりゆし不動産)を約10年経営。現在はアップライト合同会社の代表として、関東・関西・沖縄の不動産会社と連携し、不動産関連データ分析および宅建業を運営。
管理組合と大規模修繕の基本

この事件を理解するために、まず、管理組合とは何かという基本からおさらいしておきましょう。管理組合は、マンション所有者が全員参加する事が義務づけられた団体で、マンション管理についての意思決定を行う機関。大規模修繕の発注先も、管理組合が決定します。
管理組合は所有者全員の団体
管理組合は、マンションの区分所有者(部屋の持ち主)全員で構成される団体です。区分所有法(建物の区分所有等に関する法律)に基づき、共用部分の修繕工事を発注する権限を持っています。
実際の運営は、所有者の中から選ばれた理事会が担うケースが多いでしょう。理事の多くは本業を持つ一般の住民です。建築や工事の専門家ではありません。
大規模修繕は十数年に一度
公取委の定義では、大規模修繕工事とは「管理組合が計画的に発注するマンションの修繕工事で、外壁全面に足場を組むなどの仮設工事を伴うもの」を指します。外壁の補修や屋上の防水などをまとめて行う工事で、十数年おきに行われることが多いものです。
毎日新聞によると、国土交通省が2021年に行った調査では、1回目の工事の平均額は約1億5,000万円でした。費用は、所有者が毎月積み立てている修繕積立金から支払われます。
つまり談合で工事費が上がれば、そのぶん所有者全員の積立金が余計に減ることになります。
設計監理方式とコンサルの役割
大規模修繕の発注方法には、いくつかの型があります。今回の談合の舞台になったのは「設計監理方式」です。
設計監理方式では、設計コンサルタントが次のような業務を担います。建物の劣化診断、工事の範囲や仕様を決める設計、施工会社選びの補助、そして工事の監理(設計どおりに施工されているかのチェック)です。
工事をする会社と、それをチェックする専門家を分ける。住民の知識不足を補い、透明な形で施工会社を選ぶための仕組みです。国土交通省も、この方式そのものは施工会社を公正に選ぶうえで有効だとしています。
問題は、その「チェックする側」が工事をする側と手を組んでいたことでした。
談合はどのように仕組まれたのか

公取委が公表した排除措置命令書によると、今回のスキームで使われた手口は、大きく3つの段階に分かれます。
受注する会社をコンサルが中心となって決める
まず、設計コンサルから具体的な発注情報を得た施工会社が、コンサルに「この工事を取りたい」と伝えます。こうしてコンサルと1社との間に「受注協力関係」ができると、その会社が受注予定者になります。
ほかの施工会社は、受注予定者が受注できるように協力する。これが、コンサルと施工会社の間の合意でした。
見積価格は事前にそろえていた
管理組合は、コンサルの補助を受けながら複数の会社の見積りを比べ(見積り合わせ)、基本的に最も安い見積りを出した会社に発注していました。一見すると、競争が働いているように見えます。
しかし実際には、受注予定者がコンサルと協議して、参加各社が管理組合に出す見積価格を決めていました。ほかの会社は、連絡を受けた価格をそのまま出すか、見積り合わせに参加しないかのどちらかの対応を行います。
結果として、受注予定者が「いちばん安い会社」になるよう、あらかじめ準備が整えられていました。
受注会社が契約価格の5%をコンサルにキックバック
コンサルは、業務の中で知った設計予算(管理組合が決めた発注予定金額)などの情報を、受注予定者に伝えていました。さらに、受注予定者の意向を踏まえて設計コンサル業務を進めていたと認定されています。
そして受注した施工会社は、原則として契約価格の5%を目安とする金額を、コンサルに支払っていました。仮に1億5,000万円の工事なら、750万円くらいになる計算です。
発注する側の予算を知っていれば、その上限近くで見積価格をそろえることもできます。筆者はホームインスペクションを通じて建物の状態を見る立場ですが、設計図書や見積書の妥当性を判断するのは、専門家にとっても手間のかかる作業です。住民だけで不自然さに気づくのは、かなり難しいでしょう。
公取委の発表内容

今回、公正取引委員会は異例とも思える具体的な内容を発表しています。事態はそれほど重いものだったといえるでしょう。
公取は42社を違反認定し38社に措置命令
公取委は、2社のコンサルそれぞれを中心とする談合を、別々の違反行為として認定しました。数字を整理すると、次のとおりです。
| 区分 | リノシス関係 | 翔設計関係 | 合計 |
| 違反事業者 | 37社 | 20社 | 延べ57社(実数42社) |
| 排除措置命令 | 33社 | 18社 | 延べ51社(実数38社) |
| 課徴金納付命令 | 33社 | 17社 | 延べ50社(実数37社) |
| 課徴金額 | 9億2,157万円 | 7億1,631万円 | 16億3,788万円 |
| 対象工事 | 95件 | 76件 | 171件 |
両方の談合に加わっていた施工会社があるため、延べ数と実数に差があります。違反を認定された42社のうち4社が命令の対象外になったのは、合併で消滅した会社や、すでに事業を譲渡・解散した会社などがあるためです。
談合は、遅くとも2021年秋ごろから行われていました(リノシス関係は2021年9月27日以降、翔設計関係は同年11月16日以降)。公取委が立入検査に入った2025年3月4日以降は、取りやめられています。対象工事の契約日は、2022年2月から2025年2月までの約3年間に集中していました。
命令書は、両社が関わった工事の「大部分」が談合によって受注されていたと認定しています。
課徴金の多い会社と減免
課徴金が最も多かったのは伊勝(横浜市)で、2つの談合の合計で約3億8,200万円です。次いで長谷工リフォーム(東京都港区)が合計約3億2,900万円でした。
一方、YKK APラクシー(千葉県松戸市)は、違反を認定されながら課徴金を全額免除されています。公取委に自ら違反を申告した事業者の課徴金を減らす「課徴金減免制度」が適用されたためです。このほか、自主申告や調査への協力によって、課徴金を一部減額された会社もあります。
課徴金の支払期限は2027年4月30日です。なお、課徴金は国庫に納められるお金です。管理組合や住民に戻るわけではありません。
公取による関連業界3団体への申入れ
公取委は処分とあわせて、業界の3団体に申入れを行いました。全国マンション改修設計コンサルタント協会、マンション計画修繕施工協会、日本塗装工業会です。
申入れの資料では、施工会社がコンサルに支払う手数料が、受注に協力したことへの「報酬」として働くおそれがあると指摘しています。そのうえで、コンサルが施工会社に伝えると競争をゆがめるおそれがある情報として、次のようなものを挙げました。
- 管理組合が設定した発注予定金額
- 発注先を選ぶ際の具体的な基準
- 見積り合わせに参加する施工会社の名前
- ほかの施工会社の見積価格
管理組合の側から見れば、「この情報がどこまで外に出ているか」を意識することが自衛策になります。
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社名・物件名まで公表する異例の対応

業界に激震が走った理由のひとつは、公取委が具体的な会社名まで発表したこと。公取としては「他にも同様の事例が疑われるので、牽制しておきたい」のではないか、と筆者は考えています。
大手グループの企業も名を連ねる
命令の対象になった施工会社には、大手デベロッパーや管理会社のグループ会社が含まれています。長谷工リフォーム、シミズ・ビルライフケア、東急コミュニティー、大京穴吹建設、日本ハウズイング、建装工業などです。
マンションを買った会社や管理を任せている会社の系列が、修繕の談合に加わっていた。所有者にとっては、受け止めにくい事実でしょう。
171棟のマンション名も公表
公取委は、談合の対象になった工事の一覧を、命令書の別表として公表しました。工事名、つまりマンションの名前と、契約日、受注した会社が並んでいます。一覧には、東京23区内のタワーマンションも含まれています。
事件の当事者ではない発注者側の名前まで出るのは、異例の対応です。朝日新聞によると、公取委は公表の理由を「排除措置命令に基づく」と説明しています。
命令では、各社が違反行為をやめたことを、対象の管理組合に通知するよう求めています。どのマンションの工事で談合を認定したのかを明確にしなければ、この通知が確実に行われたか確かめられません。公表は、命令の実効性を担保するためだという説明です。(通知や周知の方法は、あらかじめ公取委の承認を受ける必要があります)
名前が挙がったマンションの資産価値への影響は?
対象マンションの所有者がいちばん気になるのは、資産価値への影響でしょう。朝日新聞によると、公取委は手抜き工事は認められなかったとして、資産価値への影響は「ない」と説明しています。
筆者の見方も、建物の品質という点では同じです。談合は価格の決まり方の問題で、工事そのものの出来とは別の話です。特に大手関連企業であれば、施工段階で手を抜くことは直接的に評判を損なうリスクとなりますから、積極的に手抜きをするとは考えにくいでしょう。
ただし、売却のしやすさについては、少し事情が違います。一般的に、中古マンションの買主は、修繕の履歴や修繕積立金の残高を確認します。談合による発注で予算が上がっていたとしたら、積立金の残高は減っています。その分、売却に不利になる可能性があります。
一覧に名前がある物件なら、買主や仲介会社から「管理組合はどう対応しているのか」と聞かれるケースも考えられます。理事会の議事録などで、対応の状況を説明できるようにしておくほうがいいでしょう。
報道は「業界の慣行の可能性」を指摘

処分が出た9月28日、主要な新聞・通信社は一斉にこの事件を報じました。各社の論調には、共通する点がいくつかあります。
チェック役のコンサルの責任を重く見た
日本経済新聞は、チェック役であるはずのコンサルが関与し、修繕費が上がるなかで住民の負担増につながった恐れがあると伝えました。関連記事の見出しでは、業界の自浄作用が働かなかったと指摘しています。
読売新聞も、設計コンサルと工事会社の癒着によって費用がつり上げられ、住民の負担が増える構図だったと報じています。
2社だけの問題ではない可能性
各社の報道で目立つのは、「今回の2社に限った話なのか」という問いです。
朝日新聞によると、調査対象の約4年間で、2社が担当した工事の7割以上で違反が確認されました。さらに2社は調査に対し、以前から受注調整をしていたと説明したといいます。命令書にも「かねてから」受注に関する調整を行っていたと記されています。公取委が認定したのは2021年秋以降ですが、それ以前から談合があった可能性は否定できません。
毎日新聞は関連記事で、関係者の話として「知る限り10~20年前から」という見出しを掲げました。日本経済新聞も2025年4月の記事で、業界関係者の証言として、修繕工事の談合は20年前には業界内の「暗黙の了解」だったと伝えています。
東海3県にも調査範囲が広がっている
調査は関東だけにとどまっていません。NHKによると、公取委は2026年7月28日、東海地方のマンション大規模修繕工事をめぐり、設計コンサルと施工会社あわせて28社に立入検査に入りました。対象地域は愛知・岐阜・三重の3県と報じられています。
こちらはまだ調査の段階で、違反が認定されたわけではありません。ただ、同様の談合が行われていた疑いが、別の地域でも浮上したことは事実です。
国交省は9年前から注意喚起していた
実は、国土交通省はこの問題を以前から把握していました。2017年1月27日、管理組合の利益と相反する立場に立つ設計コンサルタントの存在を指摘する通知を出し、相談窓口を周知しています。2023年4月にも、大規模修繕工事の発注の適正化について改めて通知しました。
行政が注意を呼びかけてから、処分が出るまで約9年。その間に修繕を終えたマンションは、関東だけでも相当な数にのぼるはずです。
(参考)国土交通省「マンション管理について」(大規模修繕工事等の発注等の通知を掲載)
まとめ:事件の教訓

今回の事件で明らかになったのは、住民の味方として雇ったはずの設計コンサルが、施工会社の側に立っていたという構図です。複数社から見積りを取っていても、コンサルが発注予定金額を施工会社に伝え、各社の価格をそろえていれば、比較は意味を持ちません。
そして報道や国交省の動きを見る限り、これを2社だけの特殊な事件と考えるのは楽観的すぎるでしょう。
自分のマンションで確かめること
所有しているマンションの修繕について、最低限、次の点を確かめておくべきでしょう。
- 公取委の一覧に名前があるか:命令書(別添1・別添2)の別表4に、対象工事の名前と契約日が載っています。
- 直近の修繕の発注方法:設計監理方式だったか、コンサルはどこか、見積り合わせに何社が参加し、金額にどのくらいの差があったか。
- 次回に向けた契約の見直し:コンサルとの契約で、施工会社から金銭を受け取らないことや、発注予定金額などを外に出さないことを明記しておく。
見積価格の差が極端に小さい、参加した会社がいつも同じ顔ぶれ、といった点は、一つの目安になります。ただし、それだけで談合と決めつけることはできません。気になる点があれば、公益財団法人マンション管理センターなどの公的な相談窓口に相談する方法もあります。
逆に、一覧に名前がなかったからといって、問題がなかったと言い切れるわけでもありません。今回の処分の対象は、あくまで2社のコンサルが関わった関東の工事の話です。さらに調査は進められており、他の地域でも、問題が指摘される可能性があります。
売却を考えている方へ
一覧に名前がある物件でも、公取委は手抜き工事はなかったとしています。建物の価値が直接下がるわけではありません。
ただ、売却の場面では、管理組合の対応状況や修繕積立金の残高を聞かれることがあります。事前に説明できる材料をそろえておけば、買主の不安を和らげることができます。
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参考資料
- 公正取引委員会「関東地区所在のマンションの管理組合が設計コンサル業者に委託して発注する大規模修繕工事の施工業者らに対する排除措置命令及び課徴金納付命令等について」(2026年9月28日)
- 同 別添1 排除措置命令書(リノシスコーポレーション関係)
- 同 別添2 排除措置命令書(翔設計関係)
- 同 別添3 大規模修繕工事の施工業者から設計コンサル業者に対して支払う手数料等について
- 国土交通省「マンション管理について」
- 毎日新聞「マンション修繕談合、38社に排除命令へ 計16億円課徴金方針」(2026年6月11日)
- 時事通信「修繕工事巡り42社の談合認定」(2026年9月28日)
- 朝日新聞「マンション大規模修繕で談合、38社に排除命令へ 課徴金は16億円」(2026年6月12日)。
- 読売新聞「関東のマンション大規模修繕で40社談合、工事費つり上げで住民負担増の可能性…公取委が16億円の課徴金方針」(2026年6月12日)。sakk.jp
- 読売新聞「分譲マンションの大規模修繕工事巡り談合繰り返した疑い…公取委が設計コンサルなどに立ち入り検査」(2026年7月28日)。東海地方の調査についての資料。girlsvip-matome.com
- 日経クロステック「マンション修繕談合に課徴金16億円、約40社処分案 設計監理方式にメス」(公開日未確認)。Apple Podcast
- TBS CROSS DIG with Bloomberg「マンション大規模修繕工事 約40社に排除命令へ 計16億円課徴金の方針 公取委」(2026年6月12日)。TBS CROSS DIG with Bloomberg
- TBS CROSS DIG with Bloomberg「マンション大規模修繕工事で『談合』疑い 費用を不当につり上げか 管理組合側のコンサルも… 約40社に排除命令へ 公取委」(2026年6月12日)。TBS CROSS DIG with Bloomberg


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