2025年10月10日現在、公明党が連立離脱を発表したため高市総理誕生がやや不透明な状況となりました。もし野党連立政権が樹立した場合、あるいは予想外の政党と自民党による連立政権が誕生した場合、株価も金利も大幅に不透明化すると考えられます。本稿についてもその点を考慮した上でご一読ください。
高市早苗氏が総理大臣に就任した場合、住宅ローン金利はどのような影響を受けるのでしょうか。
専門家の予測によれば、変動金利は今後1~2年は現在の低水準を維持する可能性が高い一方で、固定金利は市場の不安心理から早期に上昇する可能性があります。
政治や経済の先行きが不透明な今、どのような住宅ローン商品を選ぶべきかは悩ましい問題です。
本記事では、高市政権下での金利動向を予測しながら、どのような住宅ローンを選ぶべきかを考えていきます。
この記事は宅建士資格を保有するアップライト合同会社の立石秀彦が制作しました。
高市早苗氏の「サナエノミクス」が住宅ローン金利に与える影響

高市早苗氏の「サナエノミクス」下では、長期金利が上昇圧力を受ける可能性があります。
政治主導の経済政策、積極財政と金融緩和の同時追求により国債需給が悪化し、市場は将来の金利上昇を織り込むため固定金利が先に上昇する可能性があります。政治的圧力による拙速な金融政策により、金利高騰を招くリスクも無視できないでしょう。
「政治主導の経済」がもたらす金融市場の構造変化
高市氏が掲げる「サナエノミクス」の核心は、これまでの「経済主導の政治」から「政治主導の経済」への転換にあります。
これはアベノミクス的な考え方への回帰といえるかもしれません。日本銀行の独立性に対する挑戦的な方針であり、金融市場に構造的な変化をもたらす可能性もあります。
実際、高市氏は就任会見で「金融政策の責任を持たなければいけないのは政府」と明言しました。この発言には、これまで日銀が独立して行ってきた金融政策の決定プロセスに、政府が積極的に介入するという意図がにじんでいます。
市場関係者、特に海外投資家は、このような政治介入のリスクを「政治リスクプレミアム」として金利に織り込み始めるはずです。
つまり、実際の政策変更がなくても、政治的な不確実性が高まるだけで、長期金利は上昇圧力を受けることになるのです。これは、固定金利が変動金利より先に上昇する可能性が高い理由の一つです。
積極財政と金融緩和の矛盾が生む不確実性
高市氏の経済政策では、「大規模な財政出動」と「金融緩和の継続」という、一見すると相反する2つの要素を同時に追求しようとしています。
少なくとも高市氏は「とにかく金利を上げたくない」という強い意志を持っており、5人の総裁候補の中で唯一の積極的な金融緩和派として知られています。
しかし、積極的な財政出動は国債発行の増加につながり、必然的に国債市場の需給バランスを悪化させます。日銀がいくら金融緩和を続けようとしても、市場は「いつまでもこの状態は続かない」と判断し、将来の金利上昇を織り込み始めるでしょう。
この期待の変化によって、固定金利が押し上げられる可能性が高まります。
しかし一方で、それでも固定金利を選ぶべき理由があります。
元日銀審議委員の木内登英氏が指摘するように、仮に日銀が政治的圧力に屈して拙速な金融政策を行えば、かえって市場の信頼を失い、金利の急騰を招く可能性があります。
このような不確実性の高い環境では、将来の金利変動リスクを回避できる固定金利の価値が相対的に高まります。そしてそれが、金利が多少高くても、固定金利を選ぶ理由になります。
なぜ変動金利は当面安定するのか:専門家の見解を踏まえた分析

変動金利の基準となる短期金利については、多くの専門家が「当面は安定する」と予測しています。
野村証券の岩下真理エグゼクティブ金利ストラテジストは、高市政権下では政府との調整に時間がかかることから、次回の利上げ時期は2025年12月頃になると予測しています。
また、明治安田総合研究所のエコノミストである前田和孝氏も、利上げのペースは「ゆっくりになる可能性」があり、開始時期は2026年以降になる可能性も十分にあると述べています。
住宅ローン比較サービス「モゲチェック」を運営する塩澤崇氏も、高市氏の「需要が牽引する形のインフレになるまでは政府と日銀は足並みを揃えるべき」という発言を、早期利上げへの牽制と解釈しています。
現在の日本経済はコストプッシュ型のインフレであり、需要主導型への移行にはまだ時間がかかることから、変動金利は少なくとも1~2年は現在の超低金利水準を維持する可能性が高いといえるでしょう。
しかし、ここで注意しておきたいポイントがあります。
変動金利の安定は「今のところ」という条件付きだということです。高市政権の政策が市場の予想と異なる方向に進んだ場合、または国際情勢の急変により円安が加速した場合など、予期せぬ要因で急激な利上げを余儀なくされる可能性があります。
固定金利が先行して上昇する3つの構造的要因

一般に、住宅ローン金利が上昇する局面では「固定金利から先に上昇する」といわれています。ここでは、その原因を探っていきましょう。
第一の要因:財政悪化への懸念
高市氏の積極財政政策では、どうしても国債発行残高を増やす方向に向かってしまいます。
市場参加者は、日本の財政の持続可能性に対する懸念を強めるでしょう。そして、その不安が長期金利に反映されることになります。
実際、高市氏の総理大臣就任が確実視された段階で、長期債利回りがじわりと上昇する場面も観察されました。
日銀がイールドカーブ・コントロール(YCC)により長期金利を抑制しようとしても、財政悪化への懸念が強まれば、いずれその政策は維持できなくなります。市場はこの限界を見越して、早めに金利上昇を織り込んだ動きを見せるでしょう。
第二の要因:日銀の独立性への疑念
「政治主導の経済」という高市氏の方針は、日銀の独立性に対する市場の信頼を揺るがす可能性があります。
中央銀行の独立性は、通貨の信認を維持する上で極めて重要な要素です。この信頼が損なわれると、海外投資家を中心に日本国債の売却が進み、長期金利の上昇圧力が強まることになります。
特に注目したいのは、中央銀行が信頼を失うと、かんたんに回復できないということです。市場が一度「日本の金融政策は政治に左右される」と判断してしまえば, その認識を覆すには相当の時間と努力が必要になります。
第三の要因:政策の不確実性がもたらすボラティリティ
高市政権の政策方針が明確でない場合、または政府と日銀の間で意見の相違が表面化した場合、金融市場のボラティリティは著しく増大します。
金融機関は、このような不確実性に対処するため、住宅ローン金利にリスクプレミアムを上乗せすることになります。
これは実際の金利水準以上に住宅ローンの固定金利を押し上げる要因となります。なぜなら、銀行は将来の金利変動リスクをヘッジするためのコストを、顧客に転嫁せざるを得ないからです。
3つのシナリオで考える今後の金利動向

高市氏の積極財政は国債発行増加により財政持続性への懸念を強め、政治主導の経済方針は日銀の独立性への信頼を揺るがし、いずれも長期金利の上昇圧力となります。
そこで、専門家の分析を踏まえ、高市政権下での金利動向について3つのシナリオを検討してみましょう。
シナリオ1:早期金利正常化(発生確率低め)
このシナリオでは、インフレが想定以上に進行し、日銀が市場の信認維持のため早期に金融引き締めに転じます。YCCの撤廃により10年国債利回りは1.0%から1.5%を超えるレンジに急騰し、住宅ローンの固定金利は現行水準に比べて0.5%から1.0%程度上昇することになるでしょう。変動金利も1~2年後から段階的な上昇を開始します。
シナリオ2:緩やかな正常化(発生確率やや高め)
最も可能性が高いこのシナリオでは、高市政権は慎重に政策を進め、金融市場との対話をある程度重視します。固定金利は年0.2~0.3%のペースで緩やかに上昇し、変動金利は2~3年間は現状維持、その後緩やかに上昇を始めます。一見すると穏健なシナリオですが、それでも5年後には固定金利が現在より1%以上高くなる可能性があります。
シナリオ3:政策混乱による市場不安定化(発生確率かなり低め)
政府と日銀の対立や政策の迷走により、市場が混乱するシナリオです。固定金利は乱高下を繰り返しながら上昇傾向を示し、金融機関は大幅なリスクプレミアムを要求するようになります。変動金利は当面低位に留まるものの、ある時点で急激な上昇に転じるリスクを抱えることになります。
いずれのシナリオにおいても、固定金利は上昇傾向とならざるを得ないでしょう。また、どのシナリオが実現するかを事前に予測することは極めて困難ですから、最悪のケースに備える必要があります。
予測不可能な時代に固定金利を選ぶべき5つの理由

固定金利は上昇していますが、歴史的に見て現在の2%前後という水準は依然として低く、35年先まで返済額が確定することで長期的なライフプランが立てやすくなります。
1990年代のバブル崩壊時のような金利急騰による返済困難という最悪のシナリオを回避できるという点が、最も大きなメリットかもしれません。
以下、具体的に「今、固定金利を選ぶ理由」を考えていきます。
理由1:政治的不確実性からの解放
高市政権下では、政治的な発言一つで市場が大きく動く可能性があります。固定金利を選択することで、このような政治的な不確実性から家計を守ることができます。毎日のニュースに一喜一憂することなく、安心して生活設計を立てることができるのは、固定金利の最大のメリットです。
理由2:現在の固定金利は歴史的にまだ低水準
確かに固定金利は変動金利より高いですが、歴史的に見れば現在の水準はまだ低いといえます。1990年代には住宅ローン金利が8%を超えていたことを考えれば、現在の2%前後という固定金利は十分に魅力的です。この機会を逃せば、二度とこの水準で固定金利を確保できない可能性があります。
理由3:家計管理の確実性
固定金利なら、35年先まで毎月の返済額が確定します。子供の教育費、老後の資金など、長期的なライフプランを立てる上で、住宅ローンの返済額が確定していることの価値は非常に大きいものです。変動金利の場合、金利が2%上昇すれば月々の返済額が数万円増える可能性もあり、家計への影響は深刻です。
理由4:心理的な安定の価値
金利動向を常に気にしながら生活することのストレスは、数字では表せない負担となります。固定金利を選択すれば、日銀の政策決定会合の度にドキドキする必要もありません。この安心感は、ライフプラン的にも重要な要素です。
理由5:最悪のシナリオを回避できる
変動金利を選択した場合の最悪のシナリオは、金利が急騰して返済が困難になることです。1990年代のバブル崩壊時には、多くの家庭が変動金利の急上昇により住宅を手放さざるを得なくなりました。固定金利なら、このような最悪の事態を回避できます。
固定金利選択時のポイント

固定金利を選択する場合でも、いくつかの重要なポイントを押さえることで、より有利な条件で借り入れることができます。
まず重要なのは、複数の金融機関を比較検討することです。同じ固定金利でも、金融機関により0.2~0.3%程度の差があることは珍しくありません。35年間の返済を考えれば、この差は数百万円の違いになることもあります。少なくとも3つ以上の金融機関から見積もりを取り、最も有利な条件を見つけることが重要です。
次に、固定期間の選択も慎重に行う必要があります。10年固定、20年固定、35年固定など、様々な選択肢がありますが、高市政権下の不確実性を考慮すれば、できるだけ長期の固定期間を選択することをお勧めします。特に35年固定は、完済まで金利が変わらず、最も安心できるプランといえるでしょう。
また、団体信用生命保険(団信)の内容も重要です。金利が若干高くなっても、充実した団信が付いている商品を選ぶことで、万が一の際に家族の生活を守ることができます。特に、がん団信や三大疾病団信など、手厚い保障が付いた商品は検討の価値があります。
繰り上げ返済の条件も確認しておきましょう。固定金利の場合、繰り上げ返済に手数料がかかることがありますが、将来的に余裕資金ができた際に元本を減らせる柔軟性は重要です。手数料が無料または安い金融機関を選ぶことで、長期的な返済戦略の幅が広がります。
変動金利を選択する場合のリスク管理

「それでも変動金利を選択する」という場合は、徹底したリスク管理が必要です。
まず、金利が2%上昇した場合のシミュレーションは必ず行ってください。現在0.5%の変動金利が2.5%になった場合、月々の返済額がどれだけ増えるか、その時の家計は耐えられるか、具体的に計算してみることが重要です。
実際に計算してみると、金利上昇リスクの大きさに気づかされます。
次に、金利上昇に備えた貯蓄計画を立てることです。毎月の返済とは別に、将来の金利上昇に備えて月3~5万円程度を積み立てておくといいでしょう(ただし総借入額によります)。
この資金は、金利が上昇した際の返済額増加分に充てるか、繰り上げ返済の原資として活用できます。
また、固定金利への借り換えタイミングを見極めることも重要です。一般的に、変動金利が0.5%上昇したら固定金利への借り換えを検討すべきといわれています。ただし、借り換えには手数料がかかることも考慮して、早に決断する方が有利でしょう。
住宅ローン専門家の塩澤崇氏が提案する「銀行株投資によるヘッジ」も興味深い戦略です。住宅ローンを借りている銀行の株式を保有することで、金利上昇による銀行の収益増加を配当や株価上昇という形で享受し、家計への影響を相殺するという考え方です。
これは極端な例ですが、金利上昇リスクを別の形でヘッジする発想は参考になるでしょう。
高市政権下で利用可能な住宅取得支援策の活用

金利動向とは別に、高市政権下では住宅取得を支援する様々な政策が導入される可能性があります(かつて自民党政権が実施した政策などを参考に考えた場合)。これらをうまく活用することで、固定金利選択による金利負担増を、一部相殺できる可能性があります。
住宅ローン控除の拡充は、要望が多い政策の一つです。現在の控除期間13年がさらに延長されたり、控除率が引き上げられたりする可能性もあるでしょう。子育て世帯に対する優遇措置が強化される可能性も考えられ、これらの恩恵を最大限に活用することで、実質的な金利負担を軽減できます。
なお、現在すでに利用可能な金利優遇措置については、以下の記事で解説しています。
省エネ住宅への優遇措置も押さえておきたいポイントです。
省エネ性能の高い住宅に対する金利優遇や補助金はすでに利用可能ですが、さらに拡充される可能性もあります。新築住宅を検討している方は、省エネ基準を満たす住宅を選択することで、追加的な支援を受けられるかもしれません。
まとめ:不確実性の時代に選ぶべき住宅ローンは?

高市早苗氏が総理大臣に就任した場合、日本の金融政策はひとつの転換点を迎えることになります。「政治主導の経済」への転換は、金融市場に構造的な変化をもたらし、住宅ローン金利にも大きな影響を与えるでしょう。
確かに変動金利は当面1~2年の間は低位安定が予想されます。しかし、その先の展開は誰にも予測できません。政治的な不確実性、財政悪化への懸念、日銀の独立性への疑念など、金利上昇リスクは間違いなく存在します。
このような不確実性の高い時代だからこそ、多少金利が高くても固定金利を選択することが、長期的な家計の安定につながると確信しています。住宅ローンは30年以上にわたる長い付き合いです。目先の金利の低さに惑わされることなく、家族の将来を見据えた賢明な選択をすることが重要です。
固定金利を選択することは、単に金利リスクを回避するだけでなく、家族の幸せな生活を守るための「保険」でもあります。毎月の返済額が確定していることで得られる心の平安は、お金では買えない価値があります。政治や経済のニュースに一喜一憂することなく、安心して子育てや仕事に専念できる環境を作ることこそ、本当の意味での豊かな生活と言えるのではないでしょうか。
最後に、住宅購入は人生最大の決断の一つです。金利タイプの選択も含め、慎重に検討することが大切です。ただし、慎重になりすぎて決断を先延ばしにすることも避けるべきです。現在の固定金利水準は、歴史的に見ればまだ低水準にあります。この機会を逃せば、二度と同じ条件で借り入れることはできないかもしれません。
高市政権という新しい時代の幕開けを前に、皆様が最適な住宅ローンを選択し、幸せな住まいを手に入れられることを心から願っています。不確実な時代だからこそ、確実な選択をする勇気を持ちましょう。それが、家族の未来を守る最善の方法なのです。
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本記事は2025年10月時点の情報に基づいています。実際の金利動向は経済情勢により変動する可能性があります。住宅ローンのご利用に際しては、最新の情報をご確認の上、ご自身の判断でお決めください。