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不動産を確定測量なしで購入するリスクと判断基準:リスク回避のポイントは?

確定測量図のない不動産を購入することは、原則としておすすめできません。ただし、リスクを数値化し、それ以上のメリットがある場合には選択肢となり得ます。

たとえば、確定測量費用が50万円から100万円程度かかることを踏まえ、将来のトラブルリスクも加味して150万円から200万円程度の値引きが実現できるなら、買主にとって合理的な判断となる場合もあります。

ただし、「金銭的に合理的だから必ずおすすめできる」という訳ではありません。

実は、リスクは数値化できるものだけではないからです。

隣人との関係性が悪化するリスク、将来の売却時に苦労するリスク、住宅ローンが組めないリスクなど、金銭に換算しにくい問題も存在します。

最終的には、買主自身の事情(予算、立地の魅力、どれくらい急いで買いたいか)と許容できるリスクのバランスで判断することになります。専門家による丁寧なコンサルティングを受け、リスクとメリットを比較考量した上で、自己責任で決断する覚悟が求められるのです。

この記事は宅建士資格を保有するアップライト合同会社の立石秀彦が制作しました。

なぜ「確定測量なし」がリスクとされるのか?

確定測量がない不動産の購入がリスクとされる理由は、大きく2つあります。①境界トラブルの火種が残ることと、②資産価値が下がってしまう可能性があることです。

① 境界トラブルの火種:隣人と「ここが境界だ」という合意がないことの問題

確定測量図がないということは、隣接する土地の所有者全員が「ここが境界線です」と署名・押印した証拠がないということです。つまり、境界について正式な合意が存在しない状態で不動産を引き渡されることになります。

この状態の問題点は、購入後に隣人から「実はここは私の土地だ」と主張された場合、客観的な反論材料がないことです。境界標(境界を示す杭やプレート)が現地に残っていたとしても、それが正確な位置にあるのか、あるいは誰かが勝手に動かしたのかを証明することは困難です。

実際の事例を紹介しましょう。筆者が不動産会社を経営していた時代、買い取った物件の「境界がブロック塀ひとつ分ずれている」という指摘を、購入後に受けたケースがありました。幸いその物件は土地価格が安いエリアにあったため、50万円を支払って確定測量を実施し、円満に決着しました。むしろ再販時には確定測量図があることで売りやすくなったというメリットも生まれました。

しかし、もうひとつ深刻だった事例もあります。

大阪府岬町で事務所用地として安価な一戸建住宅を確定測量なしで購入したところ、購入後に他人の土地へ通じる通路を塞ぐ形で建物が越境していたことが判明したのです。その地域は測量されたことがほとんどなく、法務局にも14条地図(精度の高い地図)が存在しないエリアでした。幸い建物が40年以上経過しており、取得時効が完成していたため損害賠償請求を免れましたが、もし時効が成立していなければ非常に大きな問題になっていたでしょう。

このように、境界トラブルは金銭的な損失だけでなく、隣人との関係性を著しく悪化させます。そこに住み続けられるのかという精神的な問題にまで発展する恐れがあるのです。

② 資産価値の毀損:将来の売却難易度と、担保評価(ローン)への影響

確定測量図がない不動産は、将来売却する際に買い手が見つかりにくくなります。買主候補の多くは住宅ローンを利用しますが、金融機関は境界が確定していない土地を「担保価値が不明確」とみなすためです。

メガバンクや有名銀行の多くは、原則として「確定測量図(または隣接所有者全員の署名捺印がある実測図)」を融資の実行条件としています。特に都市銀行は厳格で、確定測量図の提出を求められることが少なくありません。

都市部では土地価格が高く、わずかな境界のずれが数百万円単位の評価差を生むため、金融機関もシビアに審査するのです。

一方、地方では状況が異なります。

地方では土地の評価額自体がそれほど高くないため、確定測量図がなくても融資を実行してくれるケースが多々あります。

そしてこの「金融機関が融資してくれるかどうか」というポイントは、買主自身が確定測量なしで購入するかどうかを判断する際の参考にもなります。

つまり、地元の金融機関が確定測量なしでも融資すると言っているのであれば、その地域では確定測量の有無についてそこまでシビアに見ていないということです。逆に、金融機関が非常に厳しく評価するエリアでは、確定測量なしで購入するのは危険だと考えられます。

融資の壁をどう突破するか(金融機関の視点)

確定測量図がない物件で住宅ローンを組む際、金融機関は「担保価値の不確実性」を理由に融資を渋る傾向があります。しかし、すべての金融機関が一律に拒否するわけではありません。

前述の通り、都市銀行やネット銀行は確定測量図を融資の実行条件とすることが多い一方、地方銀行や信用金庫は比較的柔軟に対応してくれる傾向があります。

融資審査を通過しやすくするためのポイントは以下の通りです。

境界標がすべて現存していることを示す証拠があれば、金融機関への交渉材料になります。現地で境界標(コンクリート杭や金属プレートなど)を確認し、写真を撮影しておくとよいでしょう。

また、法務局に測量図面などが登記されている地域であれば、確定測量図がなくても融資が通る可能性があります。一度法務局の窓口で、測量図面を請求してみてください。

さらに、つなぎ融資事後測量の合意という手段も検討できます。つなぎ融資とは、売買契約を締結した後、決済(引き渡し)までの期間中に確定測量を実施し、測量完了後に本融資を実行するという方法です。売主が測量費用を負担し、買主がつなぎ融資の金利を負担するといった条件交渉が必要になりますが、双方にとって現実的な解決策となる場合があります。

ただし、確定測量には2か月から半年くらいかかります。隣地が官有地(道路や水路)の場合はさらに時間がかかる場合もあります。急ぎの取引には向かないという点も押さえておいてください。

購入を決める前に必ずチェックしたい「最低限の証拠」

確定測量図がない物件を検討する際、買主として最低限確認すべき証拠がいくつかあります。こういった点を確認せずに購入することは、まさに「目隠しをして契約書にサインする」ようなものです。

境界標の有無と状態

現地を訪問し、境界標がすべて現存しているかを確認してください。境界標は通常、土地の四隅や曲がり角に設置されています。コンクリート杭、金属プレート、石杭などさまざまな形状がありますが、重要なのは「動かされた形跡がないか」「破損していないか」を見極めることです。

素人が現地を見ただけで境界を正確に判断することは困難です。しかし、不動産会社の担当者であれば、見た感じでおおよその境界位置を把握できることもあるため、信頼できる不動産業者に同行してもらうことをお勧めします。

八王子を中心とする東京都の多摩エリアなら、クラシエステート株式会社が対応しますので、お気軽にお問い合わせください。

地積測量図の作成年代

法務局で入手できる地積測量図がいつ作成されたものかを確認しましょう。1993年(平成5年)以降に作成された地積測量図は、測量精度が高く信頼性があります。それ以前のものは精度が低い場合があり、現況と大きくずれている可能性があります。

ただし、地積測量図が存在するからといって、それが確定測量図であるとは限りません。地積測量図は法務局に登記された測量図の総称であり、隣接所有者全員の署名押印がない場合は確定測量図とは呼べないのです。

現況測量図の有無

売主が不動産業者である場合、現況測量図を作成していることがあります。現況測量図は、隣接所有者の立ち会いや同意を得ずに、現地の状況を測量した図面です。確定測量図ほどの法的効力はありませんが、少なくとも「現時点でどのような状態なのか」を把握する手がかりにはなります。

現況測量図がない場合、売主に作成を依頼するか、その費用(おおむね20万円から30万円程度)を値引きに反映してもらうよう交渉することも可能です。

リスクを逆手に取った「価格交渉」の進め方

確定測量図がない物件は、買主にとって明確なリスク要因です。このリスクを価格交渉の材料として活用しない手はありません。

測量費用分の値引き

確定測量にかかる費用は、一般的な宅地(30坪から50坪、隣接5軒程度)で50万円から100万円が目安です。まずはこの金額を値引き交渉の基準としましょう。

「確定測量図がないので、購入後に自分で測量を依頼する必要があります。その費用として80万円を値引きしてください」という交渉は、売主にとっても理解しやすく、応じてもらえる可能性が高い交渉です。

「将来のリスク代」をどう見積もるか

測量費用だけでなく、将来発生するかもしれないトラブルのリスクも加味すべきです。このリスクプレミアムをどう算出するかは難しい問題ですが、1つの目安として「測量費用の50%から100%」を上乗せする考え方があります。

たとえば、確定測量費用が80万円であれば、リスクプレミアムとして40万円から80万円を上乗せし、合計120万円から160万円の値引きを要求してみましょう。この金額が妥当かどうかは、物件の立地、周辺環境、隣地の状況によって変わります。

都市部で隣地が複数ある場合や、隣地所有者が法人(企業や自治体)である場合は、境界確定に時間とコストがかかる傾向があるため、リスクプレミアムを高めに設定すべきです。一方、地方で隣地が少なく、隣人との関係も良好そうな場合は、リスクプレミアムを抑えた交渉でも十分でしょう。

売主の事情を見極める

価格交渉を成功させるためには、売主がなぜ確定測量をしないのかという事情を見極めることが重要です。

売主が「測量費用を節約したい」だけであれば、買主が測量費用分を値引きすることで双方が納得できる着地点が見つかります。しかし、売主が「隣人と仲が悪くて測量の立ち会いをお願いできない」という場合は、購入後に買主自身も同じ困難に直面する可能性が高いため、より大幅な値引きを求めるべきです。

また、売主が「急いで売りたい」という事情を抱えている場合、確定測量には最低3か月から4か月かかるため、測量なしでの売却を希望していることがあります。このような場合、買主は時間的な猶予を与える代わりに、より有利な価格条件を引き出せるかもしれません。

トラブル発生時の解決手順:専門家の正しい使い分け

万が一、購入後に境界トラブルが発生した場合、誰に相談すべきかも大きな問題です。相談相手を間違えると、時間と費用を無駄にするだけでなく、隣人との関係をさらに悪化させる恐れがあります。

第一段階:測量士に依頼する

境界について隣人と意見が食い違う程度の軽微なトラブルであれば、まず測量士に相談してください。測量士は土地家屋調査士ほど高額ではなく、比較的安い費用で境界の位置を確認してくれます。

測量士が作成した図面には、土地家屋調査士のように筆界を特定する法的効力はありません。しかし、素人同士で感情的に揉めるよりもはるかに建設的です。第三者である測量士が客観的なデータを示すことで、隣人も冷静になり、話し合いでの解決が可能になることもよくあります。

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実は土地家屋調査士さんの下請け業務として測量を行っている測量士さんも多く、不動産会社はそういった資格者を確保している場合があります。こういう人材に測量の相談をしておくと、後々登記や確定測量に進む場合もスムーズです。

第二段階:土地家屋調査士に確定測量を依頼する

測量士の調査だけでは解決しない場合、土地家屋調査士に確定測量を依頼します。土地家屋調査士は境界(登記)の専門家であり、隣接所有者全員の立ち会いと同意を得た上で、法的に有効な確定測量図を作成してくれます。

確定測量には50万円から100万円程度の費用がかかりますが、この費用を買主が負担することで「こちらは誠実に対応している」という姿勢を隣人に示すことができます。感情的な対立を避け、円満に解決するための投資と考えるべきでしょう。

第三段階:筆界特定制度を利用する

隣人が確定測量の立ち会いを拒否する、あるいは境界について頑なに譲らないという場合、法務局の筆界特定制度が有力な選択肢となります。

筆界特定制度とは、法務局が公的な境界(筆界)を決定してくれる制度です。隣人の合意がなくても申請でき、裁判(境界確定訴訟)よりも安く、早く解決できます。費用は申請手数料数千円に加えて測量費用(数十万円から80万円程度)で、期間は約6か月から1年程度です。裁判であれば1年から2年かかることを考えれば、はるかに現実的な手段と言えます。

筆界特定は法務局が行ってくれるので格安ですが、結局測量費用は自腹で払う必要がある点に注意が必要です。また、厳密にいうと筆界と所有権界は異なる概念だという点も押さえておいてください。

最終手段:弁護士への依頼は慎重に

弁護士に依頼することは、原則として避けたいものです。弁護士が登場した時点で、隣人との関係は完全に壊れる前提で対処することになるからです。

境界トラブルの多くは、隣人との感情的なもつれが原因です。弁護士を立てることは法的には正当な権利ですが、隣人にとっては「宣戦布告」と受け取られかねません。そこに住み続けるつもりであれば、できる限り話し合いでの解決を目指すべきです。

弁護士への依頼を検討すべきケースは、隣人が損害賠償を請求してきた場合や、明らかな悪意を持って境界を主張している場合など、法的紛争に発展することが避けられない状況に限定すべきでしょう。

まとめ:後悔しないための「取引3か条」

確定測量なしで不動産を購入することは、リスクを正しく理解し、適切に対処できる覚悟がある場合にのみ選択すべき道です。最後に、後悔しないための「買主の3か条」をお伝えします。

第一条:1か月以上の余裕を持った調査期間を確保せよ

確定測量図がない物件を検討する際は、最低でも1か月以上の調査期間を設けてください。現地での境界標確認、法務局での地積測量図の取得、金融機関への融資相談、専門家へのヒアリングなど、やるべきことは多岐にわたります。

焦って契約すると、重要なリスクを見落とす恐れがあります。売主から「早く決めてほしい」と急かされても、冷静に判断する時間を確保することが何よりも大切です。

第二条:信頼できる専門家に必ず相談せよ

確定測量なしの物件は、素人判断で購入してはいけません。信頼できる不動産仲介業者、測量士、土地家屋調査士など、複数の専門家から意見を聞いてください。

特に、仲介業者選びは重要です。「確定測量がなくても問題ない」と安易に言う業者ではなく、リスクを正直に説明し、対策を一緒に考えてくれる業者を選びましょう。セカンドオピニオンとして別の業者にも意見を求めることをお勧めします。

※セカオピへのリンク

第三条:最後は「覚悟」の問題であると心得よ

どれだけ調査を尽くし、専門家に相談しても、確定測量なしで購入する以上、リスクをゼロにすることはできません。購入後に境界トラブルが発生する可能性、将来の売却時に苦労する可能性は残ります。

それでも購入するのであれば、「何かあったら自分で対処する」という覚悟を持ってください。この覚悟がないまま、ただ安いからという理由だけで購入すると、トラブルが起きた際に後悔することになります。

逆に、リスクを数値化し、それに見合った値引きを引き出し、専門家のサポート体制も整えた上で覚悟を決めて購入するのであれば、確定測量なしの物件も十分に検討に値する選択肢となります。

最終的には、あなた自身の事情と許容できるリスクのバランスで判断してください。比較考量を尽くし、納得した上で決断することが、後悔しないための唯一の道です。

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