借地権を売るためには、地主の承諾が必要です。
ただし、地主が承諾しない場合でも、裁判所の許可を得れば売却できる可能性があります。
それを前提に、この記事では「どうしたら借地権(借地権物件)を売れるの?」という疑問にお答えしていきます。
また借地権の売却方法は4つあり、それぞれに特徴があります。また、売却時には承諾料(売却価格の10%程度)や税金などの費用がかかることを理解しておきましょう。
記事後半では、借地権売却の条件や手続きの流れ、よくあるトラブルと対処法までを分かりやすく解説します。借地権は複雑で、かなり難しい問題ですから、じっくりと取り組んでください。
借地権物件を売るための基本条件

借地権を売却するには、次の2つの条件のうち、どちらか一つを満たす必要があります。
- 地主の承諾
- 裁判所の許可を得る(地主が承諾しない時の救済措置)
地主の承諾が得られた場合でも、一般的に借地権価格の10%程度の承諾料を支払う必要があります。これは地主にとって契約相手が変わることへの対価として支払うものです。
地主の承諾が必要な理由
借地権の売却で地主の承諾が必要とされる理由は3つあります。
まず、賃貸借契約の安定性を維持するためです。新しい借地人が地主にとって不適切な場合、契約関係が不安定になる可能性があります。
次に、土地利用の適正管理です。地主は土地の適正な利用を確保する責任があるため、譲渡時に一定の判断を下す必要があります。そのための「地主の承諾」なのです。
最後に、契約上の権利保護の問題があげられます。賃貸借契約では無断での譲渡が禁止されており、地主の権利を保護するために「承諾が必要だ」とされています。
借地権の4つの売却方法
借地権の売却方法には4つの選択肢があります。一般的には借地権付きの建物の売買などでは、第三者に譲渡する(売却する)ことが多いでしょう。しかし、条件によってはその他の方法が考えられます。
それぞれの特徴を理解して、状況に応じて最適な方法を選びましょう。
1. 地主に売却する方法
地主に直接借地権を買い取ってもらう方法です。第三者を介さないため手続きが比較的簡単で、地主の承諾を得る必要もありません。
ただし、地主との価格交渉が必要で、相場より低い価格を提示される可能性があります。また、地主が買い取りを希望しない場合は、この方法を選択できません。
2. 第三者に直接売却する方法
個人や企業、不動産会社などに直接売却する方法です。エンドユーザーへの売却により、適正な価格での取引が期待できます。
この方法では地主の承諾が必要で、承諾料として借地権価格の10%程度を支払う必要があります。承諾が得られない場合は、裁判所に許可を申請することも可能です。
3. 借地権と底地権を同時に売却する方法
借地権者と地主が協力して、借地権と底地権を一括で第三者に売却する方法です。所有権として売却できるため、市場価値が高くなり、最も高い売却価格が期待できます。
ただし、地主の協力が不可欠で、売却益の配分について事前に合意する必要があります。地主との関係が良好でない場合は、この方法は難しいでしょう。
4. 等価交換により売却する方法
借地権者と地主が土地を等価で分割し、それぞれが所有権を取得してから売却する方法です。取得した所有権部分を自由に売却できるため、制約が少なくなります。
ただし、土地の形状や面積によっては分割が困難な場合があります。また、土地の分筆や登記などの法的手続きが必要になります。
借地権売却の手続きの流れ
借地権の売却は、以下の3つのステップで進めます。具体的に売却を検討する場合には、手続きの流れを押さえておきましょう。
1. 売却査定と媒介契約
まず、不動産会社に物件の査定を依頼し、適正な売却価格を把握します。査定は複数の会社に依頼することで、より正確な相場を知ることができます。
査定結果を比較検討した後、信頼できる不動産会社と媒介契約を締結し、売却活動を開始します。借地権の取引実績が豊富な会社を選ぶことが重要です。
八王子を中心とする東京の多摩エリアであれば、クラシエステート株式会社までご相談ください。
お問い合わせフォーム|クラシエステート株式会社
2. 地主の承諾取得と承諾料の支払い
借地権を第三者に譲渡する場合、地主の承諾が必要です。地主に対して譲渡の意向を伝え、承諾料の支払いについて交渉します。
承諾料の相場は借地権価格の10%程度ですが、地主との関係や物件の条件によって変動する場合があります。承諾が得られない場合は、裁判所に許可を申請することも検討しましょう。
3. 売買契約から引き渡しまで
買主が決定したら、売買契約を締結します。契約書には借地権の内容や条件を明確に記載し、後々のトラブルを防ぎます。
契約締結後、地主から正式な譲渡承諾書を取得し、借地権の名義変更手続きを行います。すべての手続きが完了したら、買主に借地権を引き渡し、取引が完了します。
地主との交渉で注意したいポイント
借地権の売却を成功させるためには、地主との交渉が不可欠です。以下の点に注意してうまくコミュニケーションを取ってください。
名義変更料と地代の清算
名義変更料(譲渡承諾料)は、借地権価格の10%程度が相場です。この金額は地域や物件の条件によって変動するため、事前に相場を調べておく必要があります。
地代の清算については、売却日を基準に日割り計算し、未払い分や前払い分を調整します。清算方法は契約前に地主と確認し、後々のトラブルを防ぎましょう。
解体費用と譲渡承諾の条件
借地上の建物を解体する場合、費用負担について地主と協議が必要です。一般的には借地権者が負担しますが、交渉次第で費用分担の合意を得られる場合もあります。
地主が譲渡を承諾する際、新借地人の信用調査や契約条件の見直しを求めることがあります。これらの条件について事前に話し合い、合意しておくことも大切なポイントです。
裁判所から許可をもらう「借地非訟手続き」について
地主が譲渡を承諾しない場合、借地権者は裁判所に「借地非訟手続き」を申し立てることができます。これは地主の承諾に代わる許可を裁判所に出してもらうための手続きです。
手続きの流れをざっくり解説しておきましょう。
まず、地方裁判所に申立書を提出します。次に、裁判所が地主と借地権者双方の意見を聴取します。最後に、裁判所が譲渡の許可を判断します。こう書くと簡単そうですが、この手続きは複雑で時間がかかるため、弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。
決してかんたんな手続きではありませんから、専門家に依頼する実益は十分にあります。
借地権物件売却時の税金と費用、売却のコツ

借地権の売却には、以下の税金と費用がかかります。
主な税金・費用
- 譲渡所得税:売却利益に対して課される税金(所有期間により税率が異なる)
- 印紙税:売買契約書に貼付する収入印紙の費用
- 仲介手数料:不動産会社への手数料(売買価格の3%+6万円+消費税が上限)
- 譲渡承諾料:地主への承諾料(売却価格の10%程度)
- その他:建物解体費用、測量費用など
譲渡所得税は、売却価格から取得費用と譲渡費用を差し引いた利益に対して課されます。所有期間が5年以下の場合は短期譲渡所得、5年超の場合は長期譲渡所得として扱われ、税率が異なります。
適正価格で売却するためのコツ
借地権を適正価格で売却するためには、以下のポイントを押さえましょう。
まず、市場相場を把握することが重要です。周辺地域の借地権取引事例や地価を調査し、適正な価格帯を理解しましょう。かんたんに調査するなら、相続税路線価を活用する方法がおすすめです。

たとえば上の画像(地図)の中央を左右に走る道路に「165D」とあるのは、路線価(数字)+借地権割合(アルファベット)。全国地価マップで、ご自分の物件の前面道路を探してください。
全国地価マップ|公式サイト
敷地の前面道路に書いてある数字から、実勢価格を推定できます。「165D」なら、226,875円となります。
実勢価格(㎡単価) = 相続税路線価 ÷ 0.8 × 1.1
次に、アルファベットを確認し、以下の表から借地権割合を求めてその割合を掛けます。
借地権割合の記号 | 割合 |
A | 90% |
B | 80% |
C | 70% |
D | 60% |
E | 50% |
F | 40% |
G | 30% |
たとえば先ほどの「165D」であれば、借地権割合は60%。
1㎡あたりの借地権の価格は136,125円と推定できます。この例(借地権割合がD)では、地主さんの底地の権利が4割しかなくて、借地権の価格が6割ですから、借地権がいかに強い権利なのかがわかります。
次のステップとして、信頼できる専門家を探してください。借地権の取引に精通した不動産会社や弁護士に相談し、適切なアドバイスを受けることが大切です。
最後に、地主との良好な関係を築くことも重要です。譲渡承諾料の交渉や売却条件の調整を円滑に進めることで、売却価格に悪影響を与える要素を最小限に抑えることができます。
信頼できる不動産業者の選び方
借地権の売却において、信頼できる不動産業者の選定は非常に重要です。以下の点を考慮して業者を選びましょう。
選定のポイント
- 借地権取引の実績と専門性(重要)
- 手数料や費用をあらかじめ説明してくれること
- 契約内容や法律の説明がわかりやすいこと
- ネット上の口コミなども要チェック
借地権の取引実績が豊富で、専門的な知識を持つ業者を選ぶことで、スムーズな取引が期待できます。借地権については奥が深く、詳しい不動産会社と経験が浅い不動産会社の差が大きい傾向があるからです。
よくある売却トラブルと対処法
借地権の売却では、以下のようなトラブルが発生する可能性があります。あらかじめ頭に入れておき、万が一の時にはうまく対処できるようにしてください。
地主が売却を拒否する場合
地主が承諾を拒否した場合、まず冷静に理由を聞き、解決策を検討しましょう。話し合いで解決しない場合は、裁判所に借地非訟手続きを申し立てることができます。
この手続きでは、裁判所が地主の承諾に代わる許可を判断します。また、借地非訟手続きに移行する場合は、できるだけ弁護士等専門家に相談するようにしてください。借地権に強い不動産会社を選ぶことも鉄則です。
高額な承諾料を要求された場合
地主から相場を超える高額な承諾料を要求された場合、まず相場を確認しましょう。一般的に承諾料は借地権価格の10%程度が相場ですが、地域による差もあるため、経験がある不動産業者の意見を聞いておくべきでしょう。
相場を把握した上で地主と交渉し、適正な金額での合意を目指します。交渉が難航する場合は、借地非訟手続きを活用することも検討しましょう。
よくある質問と答え
最後に、借地権に関する「よくある質問」とその答えをまとめておきます。
借地権の売却相場はどれくらいですか?
借地権の売却相場は、土地の更地価格の30%から80%程度です。地域や借地権の種類、契約内容により異なるため、不動産会社に評価を依頼することをお勧めします。また、この記事で説明した「全国地価マップ」の相続税路線価で借地権割合を調べてみることもおすすめします。
借地権を地主に買い取ってもらうことはできますか?
不可能ではありません。地主が買い取る場合の相場は、借地権価格の50%程度が目安とされています。ただし、地主との交渉が必要です。
借地権売却でよくあるトラブルは?
地主の承諾が得られないケースや価格面でのトラブルが多いです。事前に地主と十分に話し合い、専門家の助言を受けることが大切です。
まとめ

借地権の売却には必ず地主の承諾が必要です。これは借地権の譲渡が地主にとって契約相手の変更を意味するためです。承諾が得られない場合でも、裁判所に許可を申請することで売却が可能になります。
売却方法は4つあり、それぞれに特徴があります。地主への直接売却、第三者への売却、借地権と底地権の同時売却、等価交換による売却から、状況に応じて最適な方法を選択しましょう。
売却時には承諾料や税金などの費用がかかるため、事前に十分な準備が必要です。また、地主との交渉や複雑な手続きが発生するため、専門家のサポートを受けることをお勧めします。
適切な知識と準備があれば、借地権の売却は決して困難ではありません。信頼できる不動産業者や専門家と協力して、安全かつ効率的な取引を実現しましょう。
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八王子を中心とする多摩エリアについては、クラシエステート株式会社がご相談に対応いたします。
参考文献・資料一覧
- 借地借家法(法律)
- 国税庁「譲渡所得の計算」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3202.htm
- 不動産流通推進センター「不動産取引の手引き」https://www.retpc.jp/
- 全日本不動産協会「借地権取引の実務」https://www.zennichi.or.jp/
- 法務省「不動産登記制度」https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00011.html
- 裁判所「借地非訟事件の手続き」https://www.courts.go.jp/
- 国土交通省「地価公示」https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/totikensangyo_fr4_000043.html