借地権契約は口約束でも法的に有効です。
しかし、書面がないと第三者に権利を主張できなかったり、契約内容を証明することが困難になったりするリスクがあります。
この記事では、口約束による借地権の法的効力と、権利を守るための具体的な対策について分かりやすく解説します。適切な証拠を残すことで、口約束でも安心して借地権を活用できる方法をお伝えします。
多くの契約は、諾成不要式契約といって「口頭で双方が了解すればOK」なのですが、契約当事者以外の人にその契約の有効性を主張する(第三者対抗)ことが問題なのです。また紛争になった場合も、当事者間で「言った、言わない」の争いになりがちです。
借地権契約を口約束だけですませる危険性と対策方法

口約束による借地権契約は法的に有効ですが、いろいろなリスクがあります。どうしても契約書を締結できない、といった事情があるかもしれませんが、それでも可能な限り対策をしておきましょう。
口約束だけだと3つのリスクが考えられる
口約束による借地権契約には3つのリスクがあります。
まず、第三者に対抗しづらいという問題があります。たとえば地主が土地を第三者に売却した場合、借地権者(土地を借りている人)は新しい土地所有者に対して自分の権利を主張しづらい点が問題です。
次に、契約の存在や内容を証明することが困難になります。書面がないため、契約条件について地主と意見が食い違った場合、どちらが正しいかを客観的に判断することができないからです。
上記の2点から、法的紛争に発展する可能性が高くなります。契約の証拠がないため、地主や第三者との間で借地権を巡る紛争が起こりやすくなるのです。
やはり証拠を残すことが重要!
口約束でも、適切な証拠があれば借地権を守ることができます。特に建物の登記や契約書の作成は、第三者に対しても借地権を証明する有効な手段となります。
おすすめの記録・証明方法
借地権を保護するためには、以下の方法で証拠を残すことをおすすめします。
- 契約書を締結する
- メールなどで記録を残す
- 建物を登記する
契約書の作成が最も重要です。口頭合意に加えて書面契約を交わすことで、借地権の有効性や内容を明確に証明できます。
覚書やメールの記録も有効です。契約内容や経緯を記した文書、地主とのメールのやり取りも重要な証拠となります。地代支払いの記録も借地権の存在を示す有力な証拠になります。銀行振込の記録や領収書を大切に保管しましょう。
建物の登記は特に重要です。借地上の建物を登記することで、借地権の存在を公示し、第三者への対抗要件を備えることができます。
写真や証言も補助的な証拠として活用できます。借地や建物の状況を写真に残し、関係者の証言を集めることも有効です。
トラブル時の証拠収集
万が一訴訟に発展した場合、文書提出命令を活用して証拠を集めることも可能です。この場合、早い段階で証拠収集を始めることが有利な紛争解決につながります。
建物登記と対抗要件
地主以外の第三者(新しい地主や差し押さえを行った債権者など)に対して、自分の借地権を主張できることを「対抗要件を備えている」といいます。借地上に建つ建物を自分の名義で登記することで、対抗要件を備えることができます。つまり、土地に何らかの登記がなくても、法律上は借地権を第三者に対抗できるということです。地上権設定登記や賃借権設定登記も理論上は可能ですが、賃借権は債権扱いのため地主の協力が必要で、実務ではほとんど行われません。また、万一建物が火災などで滅失しても、滅失前の登記情報を現地に掲示すれば、2年間は対抗力を維持できます。
借地権を相続する際の手続きと必要書類

借地権は財産として相続の対象となります。相続人が借地契約を継承する際の手続きと必要書類について説明します。
また、相続した借地権物件の場合「契約書がない」「どこかへ行った」「書いてある内容が古すぎてよくわからない」といったことがよくあります。
その場合も、口約束で借地権契約をしたケースと同じポイントに注意が必要です。
借地権の相続手続き
借地権の相続では、まず相続人間で遺産分割協議を行います。借地権を継承する人を決定し、協議が完了したら遺産分割協議書を作成します。
次に、法定相続情報一覧図を取得します。これにより相続人情報を法務局で公的に確認でき、手続きを簡素化できます。
最後に、地主への相続通知を行います。相続により借地権を継続する旨を説明し、必要に応じて名義書換料を支払います。
必要書類
相続手続きには以下の書類が必要です。遺産分割協議書、相続人全員の印鑑証明書、故人の除籍謄本、相続人の戸籍謄本、借地権の証明書類(契約書や登記情報)を準備しましょう。
相続登記の手続きは、司法書士に相談するのが早いでしょう。また、相続税関連の相談なら、税理士に尋ねてみてください。
親族間での借地権譲渡の注意点
親族間で借地権を譲渡する場合も、地主の承諾が必要です。承諾の際には「承諾料(名義書換料)」を請求されることが多く、その額は借地権価格の約10%が目安とされています。ただし、地域や条件により異なるため、事前に確認が必要です。
敷金や保証金の引継ぎも重要な点です。敷金は新しい借地人に自動的に承継されないため、旧借地人が敷金返還請求権を新借地人に譲渡する特約が必要になります。
税務上の取り扱いにも注意が必要です。親族間での借地権譲渡では贈与税が課される場合があるため、取引の際は税理士に相談することをおすすめします。
地主からの立ち退き要求があった場合はどうすべき?

口約束で借地契約をしている場合、さまざまな紛争が考えられます。とくに地主から立ち退きを求められた場合、ケースバイケースではありますが、慎重な対応を心掛けてください。
借地契約の満了による立ち退き
借地契約が満了しても、借地上に建物があり使用が継続されている場合は「法定更新」が適用されます。これにより従前の条件で契約が更新されるため、法律上は立ち退く義務はありません。
借地権者は更新を主張し、これまでと同じ条件で借地を継続することができます。ただし、契約更新の際に地代の改定などの条件変更について相談をうける場合があります。
建物の老朽化や耐震性を理由とした立ち退き要求
借地借家法では、地主が立ち退きを求めるには正当事由が必要です。建物の老朽化や耐震性の問題は正当事由として認められる可能性がありますが、これだけで強制的に退去させることは難しいでしょう。
借地権者は修繕による対応を行うことで対策できます。また立ち退き料の支払いを交渉の条件とすることもできます。こういう紛争になった場合は、弁護士に相談するのがいいでしょう。まず現状を確認し、どんな対策方法が考えられるか質問してみてください。
再開発や建て替えのための立ち退き要求
再開発のための立ち退きは、地主が立ち退き料を支払うことや、建替えの緊急性・合理性が認められる場合に限り、裁判所が認めることがあります。
借地権者は立ち退き料や移転先の提供など、合理的な条件が提示されることを求めることができます。合意に至らない場合は、裁判所を通じた立ち退き料の適正額の決定も可能です。
立ち退き交渉のポイント
立ち退き要求に対しては、立ち退き料の支払いが前提となることが一般的。立ち退き料の額は地域や建物の価値によって異なるため、周囲の事例や弁護士等の意見をもとに適正額を想定してみてください。
念のため、関連する書類はすべて保存しておくことも必要です。地主側の正当事由や立ち退き理由に疑問がある場合、契約書や支払い記録、修繕履歴などを保管し、必要に応じて提出きるよう準備しておきます。
建物老朽化が理由の場合は、修繕・リフォームなどの方法で安全に住み続けられることを認めてもらえば、立ち退きを回避できる場合もあります。
法律相談などで専門家の意見を聞くことも重要

立ち退きトラブルでは、弁護士による法律相談をまず第一に考えるべきでしょう。借地権は強力な権利ですから、そもそも立ち退きに応じる必要はないかも知れません。そういった点を、まず確認してください。
予算をかけずに対処するなら、市町村が定期的に実施している法律の無料相談(たいていは弁護士さんが担当)や、都道府県の弁護士会が実施している相談会を活用するのがおすすめです。
公的機関の相談窓口を活用することで、まずは基本的な対応方針をたてることが可能になります。
「市町村名+法律相談」などでネット検索してみてください。
不動産関連の専門家に相談する方法も
借地権に関する問題では、不動産に関するさまざまな専門家が、それぞれの立場からアドバイスすることが可能です。問題の種類によって、相談先を切り分けて対処しましょう。
各専門家の役割
不動産会社は借地権価格や、土地の相場価格などを算出することができるため、地代(賃料)等で揉めた場合には意見を聞いてみる価値大。ただ、仲介業務につながらないと動いてくれないケースも多いでしょう。「書類作成代金を支払うので、土地価格査定(借地権価格査定)」を出してほしい、といった相談をしてみると動いてくれるかもしれません。
東京の多摩地区であれば、クラシエステート株式会社で査定書・借地権価格査定書をお出しします。お気軽にご相談ください。
お問い合わせフォーム|クラシエステート株式会社
不動産鑑定士は土地や建物の評価を行う専門家なので、やはり土地価格・借地権価格の鑑定評価を行うことができます。ただし、そこそこいい値段がする場合が多いので、最初に見積りをもらってください。
司法書士は登記関連の専門家です。たとえば借地上に建物がある場合に、その登記について相談する場合は、司法書士さんが適任でしょう。また、認定司法書士であれば簡易裁判所で訴訟代理もできます。プチ弁護士的な動きもできますので、その意味では幅広いトラブル相談を受けてもらえる専門家といえるでしょう。
相談のタイミング
売買や相続など重大な契約の前や、相続が発生した場合には、早め早めに相談しておくといいでしょう。筆者も借地家関係のトラブル相談を何度か受けたことがありますが、すでに手遅れになっていることも多く「こじれるまで放置するのは避けた方がいい」と思います。
たとえば、地代の支払いが滞り、滞納額が大きくなってから相談を受けたケースでは、弁護士につないだものの何もできませんでした。弁護士さんの話では、最終的に建物の撤去費用まで支払うことになったそうです。
この場合、たとえば滞納が始まる前であれば、建物買取請求権を行使して地主に建物を買い取ってもらうことができたかもしれません。それなりに大きな金額になりますから、やはり早めの相談が大切といえるでしょう。
とりあえず、不動産会社(宅建士)でいいですから、相談してみてください。不動産会社はどこも弁護士さんとのつながりがありますから、不動産に強い法律事務所につないでもらうことも可能です。
全国司法書士会一覧|日本司法書士会連合会
上記のリンク先から、無料相談会の日程も確認できます。
まとめ

口約束による借地権は法的に有効ですが、権利を確実に守るためには適切な対策が必要です。
最も重要なのは証拠を残すことです。契約書の作成、建物の登記、地代の支払い記録などの証拠を残すことで、借地権の権利を証明できます。特に建物の登記は第三者に対する対抗力を高める有効な手段です。
口約束のみの契約では、第三者に対して権利を主張できない可能性が高まります。また、証拠が少ないために契約内容の争いが生じやすく、法的トラブルに発展するリスクがあります。
これらのリスクを回避するためには、書面による契約、建物の登記、支払証拠の確保を徹底しましょう。トラブルが発生した際には、弁護士や不動産の専門家に相談することで円滑な解決が期待できます。
特に重要なのは建物の登記でしょう。
借地権の相続や譲渡では、建物が登記されていることで第三者に対する対抗力が保たれます。親族間の譲渡では地主の承諾や名義書換料の確認が必要で、贈与税が課される場合もあるため専門家への相談をおすすめします。
もし多摩地区で借地関連のトラブルでお困りなら、クラシエステート株式会社までお問い合わせください。
お問い合わせフォーム|クラシエステート株式会社
初回無料でご相談に対応しています。
参考文献・資料一覧
- 借地借家法(平成3年法律第90号)
- 公益社団法人全日本不動産協会:https://www.zennichi.or.jp/
- 神奈川県弁護士会:https://www.kanaben.or.jp/
- 一般財団法人日本不動産研究所:https://www.reinet.or.jp/
- 不動産ジャパン:https://www.fudousan.or.jp/
- 日本土地家屋調査士会連合会:https://www.chosashi.or.jp/